フェローMAX・SSレポート

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自動車工学誌の技術解説もどうぞ(2020/07/19追加)

モーターマガジン1970年10月号に掲載された小森 昇 氏のフェローMAX・SSの試乗レポートです。
送り仮名、漢字の差し替え(「附」→「付」など)、入力ミス修正忘れ以外は全て原文そのままになっています。


最近の軽自動車界の動きは全く活発である。その一つがモデルチェンジ競争であり、パワーアップ競争である。

モデルチェンジ競争は長らくなりを潜めていたミニカ360を皮切りにスバル、フェローとここ一年の程の間に矢つぎ早やに行われている。
しかもこの間にフロンテ、ホンダ、フェローのマイナーチェンジを織り込むという華やかさだ。
つまりキャロルを除いて軽全車種がモデルチェンジ、あるいはマイナーチェンジが行われているということになる。

むろんこれら一連の動きは最近活況を呈している軽自動車界を各メーカーが見直したことそして「打倒ホンダ」にあることはいうまでもない 。

一方ではマイナーチェンジ、モデルチェンジ共に軽各車のパワーアップ競争は泥沼ともいえるほどの様相を呈している。
つい最近まではオリジナルで25馬力、 SS仕様で33馬力といった程度のものが、現在ではオリジナルでは30馬力以上、
SS仕様では36馬力以上といったものが当たり前のようになっている。

軽自動車という限られた寸法の中で、しかもどの車も居住性中心のバン型スタイルとなってくると、
駆動方式やパワーでもって個性を打ち出す必要があるのだろうが、それにしても軽のパワーアップ競争には空恐ろしさを覚えるほどである。
360ccで36馬力といえばリッター当たり出力では実に100馬力にも相当する。
比出力100馬力などというパワーは諸外国の例を見てもおよそレーシングカーを除いてはまず見い出すことはできない。

全長3メートル、全幅1.3メートル、総排気量360cc、最大出力30から40馬力などという驚異的な車はおよそ日本だけのものである。
昭和42年3月に発表されたホンダN360がこれらの車の火付け役になったのは言うまでもない。
ところが現在ではこのN360を居住スペース、パワーなどでまさっている車が次々に登場している。
それだけに軽各車はここに2、3年の間に急速な進歩をとげ、現在ではかつての800ccクラスの居住性、走行性能を持つまでに成長している。

ここではこれら一群の軽自動車のうち、つい先頃発表されたフェローマックスSSの試乗レポートをお届けしよう。

ワイド設計のキャビン

フェローMAX・SSはベースとなったフェローMAX・P(管理者注:パーソナルのこと)に比べて外観や室内装備ではほとんど同じである。
外観ではラジエータ・グリル、フロント・フェンダー、トランク・リッドにつけられたSSのエンブレム、砲弾型フェンダーミラー、
サイドストライプ、デュアルエキゾーストパイプなどが、室内では革巻きのステアリングホイールのみがわずかにSS仕様であることを示しているにすぎない。

ボディスタイルは居住スペース中心のバンタイプ?である。メーカーでは「ロングノーズ&カムテール」といっているが、
一般的なこの言葉の解釈は別として、 確かに他の同タイプの軽に比べて、ややノーズが長いようである。

リアは高速走行中のボディ揚力を少なくおさえたカムテールタイプを採っている。
別名コーダトロンカともいわれるものでレース仕様車などによく採られている手法である。
この車を真横からみるとちょうど兄貴分のコンソルテ・ベルリーナのトランク部を切り落としたような感じを受けるスタイルを持っている。
全体的にこの車のボディスタイルを眺めたとき、若々しい躍動感といった印象を受ける。トヨタとの提携効果をこの車にいかしたゆえんであろう。

一方キャビンは軽としてはかなり豪華な装備である。ここからは全く旧フェローのイメージを見いだすことはできない。
メーターパネルは旧カローラのそれを思わせるような曲面をもったパネルで、そこにタコメーター、スピードメーター、コンビネーションメーターを深く埋め込んでいる。

タコメーターには3000回転までを黄線に、3000〜7100回転までを白線に、 7200〜7400回転を赤線にそして7500回転以上赤の帯で示している。
3000回転までの黄線は、SS仕様のこの車では「なるべくこれ以上の回転数を保って走ってください」との意味らしいが、走行中にも非常にわかりやすく適切な配慮である。

その右隣のスピードメーターには140km/hまで20km/hに刻まれている。これまでの軽の感覚でこの車に乗ると、60km/hと80km/hを間違えてしまうほどに目盛の位置が左にずれている。
これらメーター類の左にヒーターコントロールレバー、ラジオ、シガライター、チョークなどが置かれ、インスツルメンタルパネルは非常にすっきりしている。

ステアリングは今回SSに初めて採用された革巻を使っている。標準装備としてこのタイプのステアリング・ホイールをつけているのは軽としてはもちろん初めてであり、
小型車クラスにも余り例をみない。

ステアリング・シャフト左にワイパースイッチ、右上にターンシグナル&ディマースイッチそしてその下にスタータースイッチが取りつけられている。
走行中に度々使用されるものを手近なところにまとめたわけだ。

シートはヘッドレストが一体になった非常にサポートの良いセミ・バケットタイプである。
ペダルのレイアウトの関係上、 左に向けてオフセットされている。運転席に座ってまもなくはちょっと奇異な感じを受けるが走行には全く支障のない程度である。

ただこのシートで気になったのはリクライニング角度。3段階に大まかにリクライニングをするので、1段目では立ち過ぎと思い、もう1段倒すと今度は45度ぐらいまでに倒れてしまい、
走りながらこれをやって失敗したことがある。立ち上った角度でもっと小刻みにリクライニングさせて欲しいところだ。


40馬力エンジンを搭載

さて、この車の最大の魅力は軽乗用最強の40馬力エンジンにある。フロンテSSSが36馬力、ミニカGSSが38馬力だからそのパワーはまさに驚くべきとしかいいようがない。
リッター当たり出力では112.4馬力というレーシングマシンなみの値である。

このエンジンはオリジナル・フェローのZM-4型エンジンの吸・排気系統に手を加え、圧縮比を11.0とし、これに 横型通風式アマル型ツインキャブをつけ、
オリジナルの33馬力から一気に40馬力にパワーアップされたものだ。

最高出力40馬力は7200回転時に、最大トルク4.1kg-mは6500回転時に発生しこれらの数値はもちろん軽最強の数値である。
この高出力エンジンにより馬力荷重は11.6kg、ゼロヨン19.8秒、最高時速120km(実際はもっと出るはずだが)というすさまじさだ。

このエンジンには高級車なみに電磁クラッチによるファンが取り付けられている。
エンジンが冷えている間はクーリングファンは回らず、エンジンが過熱してくるとサーモスタットの働きにより、クーリングファンが回転をはじめ、ラジエータを冷やすというわけだ。
クーリングファンによるパワーロスはバカにならないし、またオーバークールもこれによって防ごうというわけである。

軽には贅沢な装備ともいえそうだが、裏をかえせば、 小出力の軽だからこそ必要な機構と言えるかもしれない。

サスペンションはフロントがマックファーソン・コイル、リアがセミトレーリング・コイルの全輪独立懸架方式を採っている。
このサスペンションはオリジナル・フェローに比べ車高が10mm下げられ、前後スプリングともにバネ定数を固めに変更されている。

このためコーナリング、高速走行では走行性がさらに良くなっている。

抜群の走行性

前記のエンジン出力により試乗車は素晴らしい加速性を示していた。
タコメーターでそれを読みとると4000回転付近から加速が良くなり、4500回転ぐらいからは引き込まれるような感じで、5000回転ではまさにスポーツカーそのままの加速性である。

5000回転時の車速を各ギアで表すと、1速22km/h、2速36km/h、3速56km/hとなる。マキシマムの7100回転まで回すとそれぞれ32km/h、55km/h、85km/hのスピードが得られる。
オリジナル・フェローに比べ各ギアとも1割程度マキシマムスピードがあげられている。スピードの伸びにあまり期待できないのはやはり軽の宿命ともいえるものだろう。

しかし市街地や高速道路ではこれだけのマキシマムスピードの加速性を持っていればまず申し分のない所だ。
エンジンを常に5000回転ぐらいに保ち各ギアをこまめに選択してやれば小型車クラスにも互角に走れる性能を十分に備えている。
オリジナルに比べ車高が10mm下げられ、サスペンションのバネ定数が高められたことにより、MAX・SSの走行性は さらに一覧と向上している。
ヒルクライムなどでは、オリジナル車ではパワー不足とともにロールにやや心配が残るが、SS仕様ではその両者を満足させており、全く不安なく走行できる。
MAX・Pタイプとはやはり、「中味が違う」ゆえんであろう。

小さなボディに高出力エンジンを搭載し、しかも前輪駆動となればコーナリングに心配が残るところである。
しかし、フェローではロングホイールベース、適切な重量配分、全輪独立懸架方式になどにより、FF特有のクセを非常に少なくおさえている。

高速でコーナーを曲がりながらパワーONの状態、OFFの状態と何度もくりかえしてみたが、かなり高速まで同じ円の軌跡を走りつづけ、
その間の不安定感も非常に少ないものである。

またFF方式をとるこの車では高速道路やテストコース上でその威力の程を示していた。
高速道路上では80km/hほどで長時間走行してみたが、向かい風の中をなんら心配なく走り切るほどの走行性を示していた。
テストコース上ではこの車の公表最高速度を5km/h を回る(スピードメーターは少々甘かったようだが)125km/hで走行してみたが、
これだけ小さなボディにもかかわらずハンドルとられることもなく安定した走行性を示していたのには少なからず驚かされた。

時速100kmで走るとき1台の車にはコロガリ抵抗が50%、空気抵抗が50%かかるといわれている。
もちろんこれに向かい風や横風が加われば、空気抵抗はさらに増大するわけである。
これだけの空気抵抗を受けながら試乗車が安定した走行を示していたのにはそれ相当の理由が考えられる。

まず、この車が前輪駆動であるため重心位置がFRやRRに比べ前にあること、横風を受けた場合でも駆動輪が前にあるためこれを走行コースにもどすのが容易であること、
テールをカムテール型とし、ボディにかかる揚力を非常に少なく押えたこと……などが考えられる。

カブト虫スタイルのフォルクスワーゲン1200が80km/hから100km/hで、ひどく恐い思いをしたことを考えると、まさに脅威的としかいいようのない安定性である。

この車を高速で走らせた時少々気になった点がある。ブレーキの効きが弱いこと、2、3速のギア比があきすぎていることの2点である。
2サイクルというエンジンブレーキのあまり期待できないこの車では、高速からの急激な減速にはやはりもっと強力なブレーキが必要だ。
特に下り勾配の山道ではそれを痛感した次第である。

2、3速のあきすぎもシフトダウンやエンジンブレーキを使う場合には、やはり不安が残る。
軽とはいえ馬力荷重11.6kgの身軽なスポーツ仕様なのだから、2、3速ももっとクロスして欲しいところである。

非常に良い燃費

最後に燃費について触れておこう。本誌のテストと同じように通常走行と高速走行に分けて測定したが、テストのように厳密に行わなかったので、少々の誤差が出ているかもしれない。

通常走行のコースは甲州街道を中心に78kmを走行しメスシリンダーによって測定したものだが、それによると14.3km/Lの値が得られた。
同クラスのミニカGSS、フロンテSSS、スバルR2-SSを上まわる良い数値である。

高速走行は例によって東名高速を64km走行し、その結果を測定したものだが、こちらは18.0km/Lとこれも前記3車を上まわる値を示している。
圧縮比11.0、最大出力40馬力、しかもツインキャブ仕様のエンジンを搭載したこの車でこれらのデータは非常に良いものといえよう。なお、燃費測定を含めて、試乗中はレギュラーガソリンを使用した。